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鹿児島地方裁判所 昭和56年(わ)94号 判決

本籍

鹿児島県鹿屋市新生町八五五五番地

住所

同市寿四丁目一五番一二号

衣料品販売業

谷川正秀

昭和二三年一月一六日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官今井正彦出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役六月及び罰金三五〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、一日四万円に換算した期間(端数は一日に換算する)被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、鹿児島県鹿屋市寿八丁目一〇番四号に本店をおいて衣料品販売業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、現金取引にかかる売上金額の一部を正規の帳簿に記載しないで除外し、これによって得た資金で本人や家族名義又は仮名の定期預金を設定するなどして所得を秘匿したうえ、

第一、昭和五二年分の総所得金額は一三、五一九、四七六円でこれに対する所得税額は三、五四六、四〇〇円であるのにかかわらず、昭和五三年三月一五日、鹿児島県鹿屋市向江町二八番三号所在の鹿屋税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は一、六三五、七三七円でこれに対する所得税額は四九、四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により金三、四九七、〇〇〇円の所得税を免れ、

第二、昭和五三年分の総所得金額は二〇、五六七、五四五円でこれに対する所得税額は六、九〇五、一〇〇円であるのにかかわらず、昭和五四年三月一五日、前記鹿屋税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は一、二二五、八四九円でこれに対する所得税額は五、〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により金六、九〇〇、一〇〇円の所得税を免れ、

第三、昭和五四年分の総所得金額は二〇、七七五、〇六三円でこれに対する所得税額は六、八四八、五〇〇円であるのにかかわらず、昭和五五年三月一五日、前記鹿屋税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は三、二二二、五七二円でこれに対する所得税額は二一七、六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により金六、六三〇、九〇〇円の所得税を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する供述調書二通

一、大蔵事務官作成の被告人に対する質問てん末書二一通

一、被告人作成の申述書七通(検察官請求番号65ないし70、73)

一、谷川紀子、谷川清香、渡辺譲の検察官に対する各供述調書

一、大蔵事務官作成の中園正守、東坊静男、谷川紀子(二通)、谷川清香(二通)、谷川由紀子、渡辺譲(二通)、小島弘に対する各質問てん末書

一、柿園良吉作成の申述書五通

一、大蔵事務官作成の査察官調査事績書一五通(検察官請求番号12、25、27ないし35、39ないし42)

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料

一、宮崎相互銀行鹿屋支店長作成の証明書三通

一、押収してある青色申告者書類一綴(昭和五六年押第五八号の5)、デスクカレンダー二册(同号の6)、売上帳一册(同号の8)、売掛帳一册(同号の11)及び棚卸表一綴(同号の13)

判示第一の事実につき

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書(検察官請求番号2)

一、押収してある昭和五二年分確定申告書一綴(昭和五六年押第五八号の1)及び大学ノート一册(同号の10)

判示第二、第三の各事実につき

一、押収してある金銭出納帳一册(昭和五六年押第五八号の9)

判示第二の事実につき

一、被告人作成の申述書(検察官請求番号74)

一、大蔵事務官作成の査察官調査事績書(検察官請求番号36)及び脱税額計算書(同番号3)

一、押収してある昭和五三年分確定申告書一綴(昭和五六年押第五八号の2)及び昭和五三年分修正申告書一綴(同号の3)

判示第三の事実につき

一、被告人作成の申述書二通(検察官請求番号71、72)

一、渡辺譲作成の申述書

一、大蔵事務官作成の査察官調査事績書二通(検察官請求番号37、38)及び脱税額計算書(同番号4)

一、押収してある昭和五四年分確定申告書一綴(昭和五六年押第五八号の4)、デスクカレンダー一册(同号の7)及び金銭出納帳一册(同号の12)

(法令の適用)

一、該当法条 所得税法二三八条一項(所定刑中懲役刑と罰金刑とを併科する)

一、併合罪の処理

(一)  懲役刑につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をする)

(二)  罰金刑につき 同法四八条二項

一、労役場留置 同法一八条

一、懲役刑の執行猶予 同法二五条一項

一、訴訟費用 刑事訴訟法一八一条一項本文

(量刑の理由)

本件は、店舗拡張に要した融資の返済などを図るため、三年度にわたり、売上金の一部を除外するなどして裏資金をねん出したうえ、仮名の定期預金を設定するなどの不正手段を用い、合計一、七〇二万余円の所得税を免れた事犯であって、犯行の態様、期間、ほ脱額、ほ脱率などの点では犯情は軽視し難いが、犯行の直接の動機が必ずしも私欲のためにだけあったものではなく、店舗の物的拡充に熱意をもつあまり本件の脱税に及んだという一面もあること、被告人の本件後における納税、経理状況、反省の程度などの事情に徴し、被告人に対しては主文程度の刑をもって臨むのが相当と考える。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木正義)

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